更新日:2024.8.27
参加プログラム | 二都市間交流事業プログラム(招聘) |
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活動拠点 | アムステルダム、ヘルシンキ |
滞在都市/滞在先 | 東京 |
滞在期間 | 2024年9月 - 2024年11月 |
匂いとアロマ・テクノロジーを核とする新たな映像サウンド作品に取り組む予定。リサーチでは、現代のアロマ・テクノロジーだけでなく、日本の香道の伝統についても探る。インタビューや映像撮影、執筆を通じ、儀式的な視点と気候に関連した視点の両面から見えてくるアロマをテーマとした作品を制作していく。今回のプロジェクトは、2022年に開始し、高砂香料工業と国立科学博物館筑波実験植物園と協働した前回の自身のプロジェクトの延長線上にあり、今回の滞在ではヘッドスペース・アロマ・テクノロジーを用いて希少な植物のアロマを集めることにより、引き続きリサーチを行う。
匂いと記憶をテーマとする新たな取組とリサーチを進めた。ここでの計画は、日本の香道の伝統からヘッドスペース分析法や電子鼻(電子臭気感知器)といった現代のアロマ技術まで、アロマと記憶の様々な領域とつながりを持つことである。自身にとってアロマへの関心事は、それが記憶と過去の風景を呼び起こす可能性を秘めている点にある。ここでのリサーチから映像作品と嗅覚を用いた作品に発展させることを目標に設定した。活動を少し紹介すると:
・香道と蘭奢待の香木の歴史についてのリサーチ
・アロマと記憶を探る新作映像作品のためのシーン撮影
・アロマの記憶と風景にまつわるテキストの起稿
・新作映像作品にあてるナレーション収録に向けた日本人翻訳家・声優との共同作業
・高砂香料工業株式会社と2023年にそのヘッドスペース技術を用いて開発を始めた香料の完成
全般的に今回の滞在によりこの新たな取組をさらに進めることができた。
「オープン・スタジオ」より、2024年
香料のサンプルの展示、「オープン・スタジオ」より、2024年
練香づくりを学ぶ様子、2024年
ヘルシンキ・東京間を結んで行われたLivia Schweizer氏とのレコーディング・セッションの様子、2024年
作品制作とともに日本の香りの伝統についても理解する上で、滞在中は驚くほど示唆的で実りのある体験が得られた。以下は実際に自身の活動に有用だった成果である。
・「嗅ぐ」ではなく、香りを「聞く」という言葉は香道の本質であり、この言葉により自身のリサーチにとって本当に示唆的な出発点がもたらされた。実際、日本語では「嗅ぐ」という動詞は、実際「聴く」ことであるという話は何度も耳にした。このことを念頭に置くことで、アロマが聞こえてくるというアイディアについてたくさんのことを考え始めることになり、匂いに取り組む自身の作品制作において個人的な突破口となった。言葉は時に強力な匂いとの関係性―匂いそれ自体ほどではないにせよ―を喚起するものになる。このことは自身の活動における探求をさらに進める上で着目していくであろう。
・また来日前に計画していたほとんどの場所を訪ね撮影できたことも成果だと考えている。しかし、自身が学んだのは、計画していることや映像制作の過程に自発性を取り入れることに自信を持つべきということである。
・カメラの使用や撮影の流れ、ロジスティックの経験から実用的な映像撮影技術も学んだ。
・リサーチや執筆においても新たな自信が得られた。また、科学的で歴史的なリサーチと自身のテキストを融合させる方法を見出した。
・スタジオ・ビジットに参加したキュレーターとの出会いの後、自身の作品制作と執筆に以前は認識していなかった新たな側面を発見した。それは、もしかすると少ないことは豊かであるということである。そして映像とアロマを考える際は、テキストと声のみで多くのことを見せることができるということである。
・アイディアから事を始め、進めていくうちにそのアイディアから何か新しいものや予想しないものが形づくられていくというやり方を初めてできるようになった。通常は自身の出発点にこだわりすぎて直感が制作に入り込む余地がなかった。このやり方が身についたのは個人的には偉業達成であった。
滞在を通じ、日本のアロマの伝統と歴史についての知識だけではなく自分自身のそれぞれの活動をひとつにつなぎ合わせる新たなやり方を身に着けることができた。多くの技術や考え方をさらに自身の活動手段に加えることができるようにするつもりである。2026年3月にはヘルシンキのForumBoxで今回制作を進めた映像作品からなる個展も予定している。
TOKASレジデンシー・スタジオ 作家本人の使用スペース、2024年
《A Familiar Bloom’》撮影風景、筑波実験植物園、2024年
《A Familiar Bloom’》2024年、映像、17分(ループ再生)
嗅覚の展示テスト、東京工業大学(現・東京科学大学)2024年
助成:
フィンランド文化財団 (Finnish Cultural Foundation)
アーツ・プロモーション・センター・フィンランド (Arts Promotion Centre Finland)
オルガ・アンド・ヴィルホ・リンナモ財団 (Olga and Vilho Linnamo Foundation)