凪ぎ、揺らぎ、

TOKAS Project

凪ぎ、揺らぎ、

TOKAS Project Vol. 6

都市と文化を見つめるTOKASとケベック州との交流記念展

トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)では、2001年の開館以来、海外のアーティスト、キュレーター、アートセンターや文化機関などと協働して展覧会や関連プログラムを実施してきました。2018年より開始したTOKAS Projectは、国際的な交流を促進し、多文化的な視点を通じて、アートや社会など、さまざまなテーマについて思考するプロジェクトです。本展はカナダ・ケベック州政府在日事務所設立50周年と、TOKASとケベック州との本格的な交流5周年を記念し、これまでTOKASのレジデンス・プログラムに参加したケベック拠点アーティストを中心とした交流展を開催します。

TOKASとケベック州との交流は2015年にさかのぼり、以降、毎年ケベックを拠点とするアーティストを受け入れてきました。そして、2017年より正式に協定を結び、1年に1組ずつ相互にアーティストの派遣と招聘を行っています。2023年度までに、16組のケベック拠点アーティストがTOKASレジデンシーで、また、5名の日本人アーティストがモントリオールのセンター・クラークでの滞在制作に参加しました。

本展ではそのなかから、2017年から2019年にかけて、TOKASのレジデンス・プログラムに参加した、ジャン=マキシム・デュフレーヌ&ヴィルジニー・ラガニエール、ジェン・ライマー&マックス・スタイン、ミシェル・ウノーと、2022年にケベックへ派遣され滞在制作を行った國分郁子の計4組が、それぞれ都市の移り変わりと、それに伴う文化や環境への順応を見つめた作品を紹介します。 彼らが過ごした東京は、2020年に東京オリンピック・パラリンピック大会を控え、東京の街や日本の社会全体がいよいよ大きく変わっていこうとしていた時期に重なります。彼らはそれぞれ、都市化された労働環境へ順応するために掛かる負荷に苛まれる人々の心理や、そういった環境から少し離れたところで、人々の生活に馴染みすぎているために認識されず気づかれないまま存在する景色、一方で自然との決別を示すかのように建造される巨大防波堤の様子と人々の心の機微を静かに見つめ、収集し、作品へと醸成させました。

一方、2年にわたる派遣延期を経てケベックへ渡航した國分郁子は、サーカス、アクロバットなど、ノンバーバル・コミュニケーションを用いた舞台芸術において、世界的評価を得るケベックのパフォーミング・アーツを代表するシルク・ドゥ・ソレイユの舞台を起点に、身体表現によって共有される感情や体験を、演劇的解釈を用いて平面作品へと落とし込みます。制約された動きが生む緊張感と静寂と、次の瞬間の躍動を融合させ、奥行きのある新たな時空間への展開を目指します。

この5年、10年の間に社会全体や人の意識を大きく揺るがす事象に誰もが直面し、特に世界が一斉に止まらざるを得なかった2020年の空白の時間は、身体に刷り込まれた文化や環境でさえも、微かな揺らぎとなって違和として炙り出されるようでもありました。この空白を忘れたかのように、素知らぬ顔をして世界が再び動き出した今日、空間、時間、音、感情、風景を切り取り、編み込んでいった彼らの作品から、本質的に変わったかもしれないものや、変わらなかったことに改めて気づけるかもしれません。 

開催概要

タイトルTOKAS Project Vol. 6 「凪ぎ、揺らぎ、」
会 期
2023年10月7日(土) - 2023年11月12日(日)
時 間
11:00-19:00(最終入場は30分前まで)
休館日月曜日(10月9日は開館)、10月10日(火)
会 場
トーキョーアーツアンドスペース本郷(東京都文京区本郷2-4-16)
入場料
無料
アーティスト
ジャン=マキシム・デュフレーヌ&ヴィルジニー・ラガニエール
ミシェル・ウノー
國分郁子
ジェン・ライマー&マックス・スタイン
主 催
公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 トーキョーアーツアンドスペース
協 力
ケベック州政府在日事務所、ケベック・アーツカウンシル、センター・クラーク

    


センタークラークについて

TOKASとの二国間交流事業プログラム提携先であるセンター・クラークは、80年代からモントリオールのアートの中心であるマイル・エンド地区に位置し、アーティストの自主運営による元工場を改装した複合的なアートセンターです。2つの展示スペースやオーディオ・スペース、出版部のほか、市内唯一の木材加工スタジオ「アトリエ・クラーク」を併設。同じ建物内にはアーティストのスタジオやデザイン事務所などが入居し、現地のアート・コミュニティのハブとなっています。

参加アーティスト

《Fukuro》 2019 

ジャン=マキシム・デュフレーヌ&ヴィルジニー・ラガニエール|Jean-Maxime DUFRESNE & Virginie LAGANIÈRE

<2017年度リサーチ・レジデンス・プログラム参加>

人間の精神構造への関心と、建築、自然、技術革新を包括する社会の変容を探求するデュフレーヌとラガニエールは、日本の高齢者問題における労働者不足の一方で顕在化する労働過多や、協調性が求められる故に負荷となっていく社会的モラルに対する逃避などをテーマにリサーチを進めました。本展では、写真や映像作品からなるインスタレーションで、社会の未来と不確実性を提示します。

【プロフィール】ジャン=マキシム・デュフレーヌ:フランス生まれ。2006年ケベック大学モントリオール校コミュニケーション学科実験メディア研究修了。ヴィルジニー・ラガニエール:カナダ生まれ。2006年ケベック大学モントリオール校コミュニケーション学科ヴィジュアル&メディアアート学科修了。ともにモントリオールを拠点に活動。主な展覧会やレジデンスに、「Là où je me terre」(ISELP、ブリュッセル、2023)、「Radiant Mountain」(Foreman Art Gallery、シェルブルック、カナダ、2022)、「La Becque プリンシパル・レジデンシー・プログラム」(ラ・トゥール・ド・ペ、スイス、2022)など。

助成:ケベック・アーツ・カウンシル、カナダ・アーツ・カウンシル

《眩暈:東北の新しい10の壁》 2020

ミシェル・ウノー|Michel HUNEAULT

<2017年度/2022年度芸術文化・国際機関推薦プログラム参加>

ドキュメンタリー写真家であり、ヴィジュアル・アーティストとして活動するウノーは、2012年の初来日以降、定期的に東北地方を訪れ、その復興状況を記録し、大災害後に再建され変貌していく風景と、その自然との関係を形成しつづける人間社会について考察を重ねています。また、東北での活動と並行して、津波被害を受けなかった日本の他の都市についても、自然と現代性に関するプロジェクトを遂行しています。今回紹介する作品群は、それらがリサーチの経過でもあり、また、芸術的な文脈で展開する成果であると同時に、ジャーナリズムの観点からもドキュメントとは何であり、どこでどのように機能し得るのかを鑑賞者に問いかけます。

【プロフィール】1976年カナダ・ルパンティニー生まれ。モントリオールを拠点に活動。2004年カリフォルニア大学バークレー校ラテンアメリカ研究修士、平和構築・紛争予防学研究修了。主な展覧会に、「Péninsule」(Gaspésie Museum、ガスペ、カナダ、2022-23)、「Incipit Covid-19」(McCord Museum、モントリオール、カナダ、2022-23)、「Vertige: 10 news walls of Tohoku」(Pierre-François Ouellette art contemporain、モントリオール、カナダ、2022)など。

助成:ケベック・アーツ・カウンシル、カナダ・アーツ・カウンシル

 

《分裂させる何かが通り過ぎる》 2022

國分郁子|KOKUBUN Yuko

<2022年度二国間交流事業プログラム(ケベック)参加>

「地球劇場」をコンセプトに、社会、生命、時空の概念や、人間の内部で起こる心や身体の変化を、演劇的解釈に置き換え、作品に展開させる國分郁子。生まれた環境や文化、慣習に縛られて生活せざるを得ない私たちの社会を既存の文様に見立て、そこから反発するように芽生える柔軟性を、さまざまなモチーフから得たイメージを用いたコラージュで表します。本展では、サーカスの構成要素である「バランスの力学」に焦点を当てて絵画の支持基底面や重心が変化していく作品群を発表します。ひとりの人間が平衡を保とうとする一方で、社会と個のバランスが崩れ、混ざりあっていくひとつの世界観を、平面作品と空間構成で表現します。

【プロフィール】1982年千葉県生まれ。東京都を拠点に活動。2010年東京藝術大学大学院美術研究科修了。主な展覧会に、「やわらかな強制」(TS4312、東京、2022)、「VOCA展2020 現代美術の展望―新しい平面の作家たち―」(上野の森美術館、東京)など。

助成:公益財団法人朝日新聞文化財団



《荒川―東墨田》 2019

ジェン・ライマー&マックス・スタイン|Jen REIMER & Max STEIN

<2019年度二国間交流事業プログラム(ケベック)参加>   

サウンド・アーティスト、ミュージシャンとして活動するライマーとスタインは、サイト・スペシフィックなパフォーマンスやサウンド・インスタレーション、空間レコーディングをとおして、都市環境の共鳴や、音と空間からなる物理的な体験を探求しています。 本展では、2015年から進行しているプロジェクト・シリーズ『Sounding the City』を発表。周囲の環境や、その場所そのものから発生している音を採集し、その音環境を再現した装置によって、鑑賞者の耳がその音に集中するように誘うことで、気付かれずにいる都市環境の特徴に目を向かわせます。2019年に墨田区の工業地帯や河川敷で、明確な音色やテクスチャとして集めた街のざわめきやリズムを、今回の発表に向け、同じ場所に再訪して再録し、新たな展開を試みます。

【プロフィール】ジェン・ライマー:カナダ生まれ。マックス・スタイン:アメリカ生まれ。ともにモントリオールとロサンゼルスを拠点に活動。主な活動に、「Reservoir Lyren」(Sonic Topologies Festival、チューリッヒ、スイス、2022)「Sounding the City」(TOKASレジデンシー、東京、2019)/(Tsonami Arte Sonoro、バルパライソ、チリ、2018)、「Estufa Fria」(Lisboa Soa、リスボン、ポルトガル、2017)など。

助成:ケベック・アーツ・カウンシル

展示アーカイブ

展示風景

國分郁子

ミシェル・ウノー

ジャン=マキシム・デュフレーヌ&ヴィルジニー・ラガニエール

記録映像:髙橋健治

ジェン・ライマー&マックス・スタイン


カタログ

出版物ページより本展覧会のカタログをダウンロードできます。ダウンロードはこちら





関連イベント

アーティスト・トーク
日時2023年10月7日(土) 15:00-16:30
出演ジャン=マキシム・デュフレーヌ&ヴィルジニー・ラガニエール、ミシェル・ウノー、國分郁子、ジェン・ライマー&マックス・スタイン
会場トーキョーアーツアンドスペース本郷
料金無料
言語日英逐次通訳

※日程及び参加アーティストは変更となる場合がございます。

國分郁子トーク・イベント

ライター・サーカス研究者として長年第一線で活躍している西元まり氏をゲストに迎えて、TOKASのレジデンス・プログラムのケベック派遣にてサーカスをリサーチした國分郁子のトークイベントを開催します。 なぜモントリオールはサーカスの最前線の都市になったのか、コロナ禍でのサーカス・カンパニー事情など、「コンテンポラリー・サーカスって何?」という人にもわかりやすく、両者から見たモントリオールという街、サーカスの魅力や、これからの可能性について語ります。

日時2023年11月5日(日) 15:00-16:00
出演國分郁子
ゲスト
西元まり(ライター・サーカス研究者)
会場トーキョーアーツアンドスペース本郷 スペースA(1階展示室)
料金無料
言語日本語
助成 公益財団法人朝日新聞文化財団 
協力ケベック州政府在日事務所

【登壇者プロフィール】
西元まり(にしもと まり)
ライター・サーカス研究者。シルク・ドゥ・ソレイユをはじめとするサーカスやエンターテインメントを国内外で取材。著書に『アートサーカス サーカスを超えた魔力』(光文社新書、2003)、『シルク・ドゥ・ソレイユ サーカスを変えた創造力』(ランダムハウス講談社、2008)、絵本『サーカスの学校』(福音館書店、2010)など。サーカス研究のため、20代に交わって大阪大学大学院文学研究科博士後期課程に進学し、“人生の綱渡り”中。

國分郁子(こくぶん ゆうこ)
現代美術作家。東京都を拠点に活動。2010年東京藝術大学大学院美術研究科修了。主な展覧会に、「やわらかな強制」(TS4312、東京、2022)、「VOCA展2020 現代美術の展望―新しい平面の作家たち―」(上野の森美術館、東京)など。 「地球劇場」をコンセプトに、社会、生命、時空の概念や、人間の内部で起こる心や身体の変化を、演劇的解釈に置き換え、制作している。2022年、TOKASのレジデンス・プログラムでサーカスのリサーチのためモントリオールに滞在。“人生のジャグリング”中。 

参加クリエーター

ジャン=マキシム・デュフレーヌ (ジャン=マキシム・デュフレーヌ&ヴィルジニー・ラガニエール)
ミシェル・ウノー
國分郁子
ヴィルジニー・ラガニエール(ジャン=マキシム・デュフレーヌ&ヴィルジニー・ラガニエール)
ジェン・ライマー&マックス・ スタイン

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