OPEN SITE 10|公募プログラム【パフォーマンス部門】
社会と物理的につながらないまま、それでもつながりを得ることは可能なのか。社会との「切断」と「接続」を同時に求める身体をモチーフに、その矛盾した欲望を、使い捨てられた日用品のようなオブジェクトとの無目的な戯れによって描き出す。長年にわたる不登校の経験をもとに、「既存の社会から孤立(化)する身体」を、即興性・偶然性に開かれたプラクティスをとおして考察するソロダンス・パフォーマンス。
| 日時 | 2025年10月17日(金)19:00- 2025年10月18日(土)14:00-、17:30- 2025年10月19日(日)14:00- ★トーク:15:00- |ゲスト:高田冬彦(美術家/映像作家) *19日のトークは、17日・18日ご鑑賞の方もご参加いただけます。 ※撮影について ・公演のパフォーマンスの様子を動画及び写真で撮影いたします。 ・会場内で撮影する写真・動画は、事業記録として使用するほか、TOKAS 公式ウェブサイト、SNS、YouTube などで公開する場合があります。また、アーティストのウェブサイトや展覧会で公開するほか、広報目的等で使用する場合があります。あらかじめご了承ください。 |
|---|---|
| 料金 | 2,000円 - 予約制、自由席 - 9月12日(金)14:00より予約開始 - 各公演とも定員になり次第、または前日17時までに予約受付を終了します。 |
| 会場 | トーキョーアーツアンドスペース本郷 スペースC(3F) |
| コンセプト/振付/出演 | 藤田一樹 |
| 音響設計 | 中原 楽(KARABINER inc.) |
| 制作(フランス) | cohue – Lucille BELLAND |
| 協力 | 急な坂スタジオ、宮久保真紀 |
| チケット情報 | 2025年10月17日(金)19:00- *予約受付を終了しました。会場にて開演15分前より若干枚当日券を販売します。※現金精算のみ(10/16) 2025年10月18日(土)14:00- *予約受付を終了しました。会場にて開演1時間前より若干枚当日券を販売します。※現金精算のみ(10/17) 2025年10月18日(土)17:30- *予約受付を終了しました。会場にて開演1時間前より当日券を販売します。※現金精算のみ(10/17) 2025年10月19日(日)14:00- *予約受付を終了しました。会場にて開演1時間前より若干枚当日券を販売します。※現金精算のみ(10/18) |
9月12日(金)14:00より販売開始(外部サイトに遷移します)
※Peatixのアカウント登録とログインが必要です。
*本企画はDRACオクシタニーが助成するMaster Exerce修了者支援基金の一環として、モンペリエ国立振付センター(ICI–CCN、芸術監督:クリスチャン・リゾー)のサポートを受けて発展しました。

《Contes de la déviation》2025 Photo: Hubert CRABIÈRES

《Contes de la déviation》2025 Photo: Hubert CRABIÈRES

《Contes de la déviation》2025 Photo: Hubert CRABIÈRES
ダンサー、振付家。パリと神奈川県を拠点に活動。言葉を身振りに、身振りを言葉に翻訳するプロセスに関心をもち、
不一致や齟齬、誤解を手がかりにした実験的なパフォーマンスを創作する。主な活動に「Contes de la déviation」(Ménagerie de Verre レジデンス、パリ、2025)、リヴァー・リン「My body is a public collection」出演(欧州・地
中海文明博物館、マルセイユ、フランス、2024)など。
https://kazukifujita.com/
境界線(かべぎわ)に生きる|外部化された脳内、もうひとつの「部屋」
小林晴夫(OPEN SITE 10 審査員)
藤田一樹はパリと神奈川を拠点に、ダンスを軸に表現を模索するアーティスト。今回の作品では、2015年に渡仏する以前、彼自身が幼少期から10年以上にわたって不登校をしていた経験を踏まえた作品づくりに挑戦している。それは「社会とのつながりを失う」という、ともすれば負のイメージを想起させる履歴に意味を探し、作品に表す行為の根拠へと読み替えをする試みでもある。
日本で現代演劇を学びパリで本格的にダンスを始めた藤田にとって、言葉によって可能なコミュニケーションや表現と、それを別の言語や身体行為に置き換え、また元の言葉に戻すような翻訳の行程に関心をもつようになる。しかし翻訳には穴もあって、異種言語の間には完全に一致することがない、翻訳の過程で失われたものが存在する。
藤⽥にとって、日本語やフランス語からも、ダンスの身振りからも取り残されてしまったものは、ある種の感覚として彼の脳みその中に留まっている。その感覚は、かつてひとり部屋の中で自問自答を繰り返す中で、脳内や身体に残る形を持たない感覚と、外に出せずにいる状態も含めて似ていたのかもしれない。
藤田が設えた場を見て、ここは閉じた「部屋」だと、ひとり合点してしまった。でも、そこに示された「部屋」は、建築における居室のような「部屋」でも、劇場の舞台上に置かれる図式化された「部屋」でも、カフェのように開かれて共有可能な「部屋」でもない。そしてかつて藤田がひとりで過ごした本当の「部屋」とも違う。強いていうならば、アーティストにとってのスタジオのように、脳みその外部装置として機能する「部屋」に似ている。ただし、そこは工房のようには整理されておらず、藤⽥の頭の中にある感覚を物に置き換えながら、空間に広げて試行錯誤をする場であり、頭の中で長年過ごしたもうひとつの「部屋」なのだ。
その「部屋」はクシャクシャな物で散らかっている。藤⽥は彼が頭の中に抱えている形をもたないグチャグチャな感覚を外に出して、手元に置いて考えるためには、実際目の前に物を置いて考えることが必要だったのだという。そうしておいて、物やそれが置かれた空間に対して自身の身体を使って「迂回する」という独自のアプローチをする。というのは、物や空間に対して、決して直線的なアプローチを取らず、自分の既知の方向とは違う方向を探しながら、全く違うやり方で目的に対して向かっていく姿勢。そうした稽古を重ねていく過程で、何度も繰り返し出てくる動きや、執着する動きだけを残していき、さらに繰り返すことでブラッシュアップしていくというのだ。
高田冬彦とのトークの中に興味深い話があった。藤⽥の父が、少し病んでいた時、部屋はゴミ屋敷と化し、ヘビースモーカーの父はその喫煙を認めず、ある日車の助手席に座った藤田がダッシュボードからガラガラと落ちてきたタバコの空箱を見て、父を問い詰めたところ、それでも「喫っていない」と断固否定し、果てには空箱の山を目の前に「箱なんてない」と言い放ったというのだ。この経験で藤⽥は目の前にある物が本当にある物なのかを疑うようになってしまったという。ちょっと怖い話だが、藤田にとっての振り付けとは、外にある物と脳内にある物の間の埋まらない距離を縮めるための確認作業なのかもしれない。
また今回音響を担当した中原楽と共同でつくられた音響空間が作品に流れをつくり出し、窓の外が収録されたり、増幅されたり、リアルタイムに聞こえてくる環境音も含め、繊細かつビビットな存在感をもって、もうひとつのレイヤーとして「部屋」の上に重なっている。
「部屋」にいるのはひとりのダンサーと相手役を務める床に横たわる物たち。不意にダンサーの身体に触れれば音を発して自己主張もしてくる。それにびっくりしてたじろぎながら、よく見ると、紙袋や布袋やビニールでできたアクアバックなど、皮膚のような皮膜の中に空気や水を閉じ込めることができて、音を発する音響装置であると同時に、ダンサーの身体とも似た構造を備えている。ダンサーは物たちに対して、奮い立たせ、揉み合い、抱きしめ、転げ回り、内側に潜り込んで、息をし、喉を鳴らし、矯めつ眇めつする。そのやりとりは、対話のようで、一方通行な働きかけにも見える。やはりそこにはひとりだけが「部屋」にいて、立ち尽くし、自問自答し、試行錯誤し、途中でやめては、またあてどなく何かを探し続けるような、途方もない行程と時間の積み重なりに見える。
孤立は社会的な位置を示す言葉だが、孤独はひとりの身体にじわじわと染み込んでくる液体のような心象のことだ。ダンスのオリジナルの表現とたったひとりで閉じた空間で試行錯誤する様と、定型化された社会からはみ出したものが孤立した部屋の中で静かに、しかし当て所なく繰り返される徒労のような時間。いつの間にか「部屋」もそこにいる物やダンサーの身体も図式化して、鉛の兵隊でも眺めているような気分を味わった。この小さな「部屋」に外側の世界がひっくり返って入り込んだような錯覚だ。
部屋の中では色々なことが起こっているのに外には外の音があって、まるで無関心にシンクロしてくる。とうとうダンサーも物もいびつに混じり合って、その行為の結果として全体の音響空間とも同調していく。じわじわと音響空間が迫り出して佳境に達する頃には、ささやかなダンスのフレーズが生まれる。でもまだ外には出られないから、ギリギリの境界線であるところの壁際を見出して、その薄い場所から生きていくことは始まる。
いつかは表現の可能性においても、この「部屋」から踏み出す日が来るのだろうか?
小林晴夫
blanClassディレクター、アーティスト。1968年神奈川県生まれ。2001年~2004年Bゼミ所長。2009年blanClassを創立し、芸術を発信する場としてライブイベントを多数実施。現在はアーカイブ運営と出張企画等を中心に活動を展開している。