OPEN SITE 10|公募プログラム【展示部門】
メキシコのゴーストタウンを舞台にしたビデオ・インスタレーション。レイ・ブラッドベリの黙示録的なSF小説『火星年代記』の最後の短編『百万年ピクニック』に着想を得て制作された。原作ではある一家が生活を再建するために地球から火星に移住するが、本作では火星探査機を主人公に、移動、入植、そして地球という惑星における人間存在について探求する物語へと改変している。また、ゴーストタウンで発見したオブジェも展示し、鑑賞者を虚構と現実の境界に誘う。
| 会期 | 2025年10月11日(土) - 11月9日(日) |
|---|---|
| 休館日 | 月曜日(10月13日、11月3日は開館)、10月14日(火)、11月4日(火) |
| 時間 | 11:00-19:00 |
| 入場料 | 無料 |
| 会場 | トーキョーアーツアンドスペース本郷 スペースA (1F) |

《Ghost town》2022

《Magic spell》2022

《Doll》2022

《Objects》2022
| 日時 | 11月1日(土)14:00- |
|---|---|
| 出演 | カルロス・ヴィエルマ |
| 言語 | 英語 |
| 料金 | 無料 |
| 会場 | トーキョーアーツアンドスペース本郷 スペースA(1F) |
メキシコのヴィジュアル・アーティスト。現代の遺跡やその構造についてフィクションをとおして探究している。移動や境界、ランドスケープとそのモニュメントをテーマに、絵画、映像、インスタレーション作品を制作し、現在は公共空間と芸術の関係に関心をもつ。主な展覧会に「Here the homeland
begins」(モンテレイ現代美術館、メキシコ、2025)、「An Infinite Picnic」(ローンデール・アートセンター、ヒューストン、アメリカ、2025)など。
出版物ページより「OPEN SITE 10」各作家のカタログをダウンロードできます。ダウンロードはこちら
機械仕掛けの荒野でピクニック
畠中 実(OPENSITE 10 審査員)
現在の私たちが生きるテクノロジーを基盤にした生活環境は、もはや自然環境のように私たちの生活と密接に関係し、浸透している。そうしたテクノロジカルな環境においては、人工物は自然と対立するのではなく、自然がそうであるように、私たちが生きるためのインフラであり、人類の経験と知恵とが情報化された自然環境さながらに、私たちは環境に埋め込まれた情報にアクセスするためにつねに携帯端末を目にやっているのかもしれない(そのうちの大部分は無用の情報であるとしても)。
カルロス・ヴィエルマによるインスタレーション「A mechanical wilderness(機械仕掛けの荒野)」は、そのタイトルが示唆するように、人類によってもたらされたテクノロジカルな環境における人類の消滅というヴィジョンをつきつける。そうしたインスピレーションを作家にあたえたのは、作家の母親の故郷に近い、その景観ゆえに「火星」と呼ばれるメキシコのゴーストタウンである。そして、その風景は作家に、レイ・ブラッドベリのSF小説『火星年代記』(The Martian Chronicles)(1950)を作品のモチーフとして思い出させることになった。
『火星年代記』は、1940年代にブラッドベリが書いた火星にインスピレーションを得た短編を、タイトル通りに年代記としてまとめたものである。もともとは、1999年から2026年を舞台にした26編の小説からなる。後年、現実との整合性を考慮してか、2030年からはじまるように調整され、再出版されている。作品は、その最後のチャプターとなった「百万年ピクニック」(The Million Year Picnic)に着想を得て制作された。その舞台となった時代が、オリジナル版では2026年であることは偶然ではないだろう。
作品は、2つの展示空間からなり、さらには会場であるTOKASの外から見る(読む)要素を考えると3つの段階を持つ。展示室のふたつの窓に、会場の外から読ませるようにLEDライトによる「私のバッテリー残量は少ない」と「だんだん暗くなってきた」というメッセージが表示されている。そのメッセージは最初の展示室で展開される、ゴーストタウンで収集された廃品の数々によるインスタレーションへと誘う。そして、カーテンで仕切られたその隣の空間には、『百万年ピクニック』を底本にした映像作品が展示されている。
『火星年代記』は、人類の火星探検にはじまる火星人との遭遇と、その過程での相互に相容れない状況をへて、火星人の絶滅と火星への入植と地球の世界的核戦争といった歴史が記されている。それが、なんと27年という短さで、というのも現在では予言的に感じられる。「百万年ピクニック」は、破滅した地球から火星に移住した地球人の家族が、人類の歴史をリセットし、火星人としての百万年後に向かう新しい歴史の始まりを決意する物語である。作品では、火星への入植と地球での核戦争をへて、故郷を失った地球人が火星人として歴史を再起動するというストーリーが、メキシコのゴーストタウンと接続される。それはまた、この作品が、火星探査機の視点で描かれるように原作を読み替えることで、人間不在の世界観を提示するものになっている。その意味では、『火星年代記』の最終章である「百万年ピクニック」の直前のチャプターである「優しく雨ぞ降りしきる」(There Will Come Soft Rains)の世界観に近いかもしれない。そこでは、核戦争後の人間不在の世界で、機械だけが変わらぬルーティンを続ける様が描かれた黙示録的な世界が描かれる。かつて外宇宙探査機に搭載された地球の自己紹介のための暗号を記したプレートは、火星探査機によって(誤)解読され、人間の再定義がはじまる。
オープニングのトークでは、アーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』(1968)にもインスパイアされたことが語られた。すると、宇宙人(あるいは神)との遭遇と人間の進化をあつかった『2001年〜』のラストシーンに登場する人類の進化形としてのスターチャイルドが、『百万年ピクニック』における水鏡に映った家族の映像と、この作品の最後に登場する私たちの姿とオーヴァーラップするように感じられた。
ライヴカメラによって観客が作品にとりこまれるという手法は、ヴィデオ・アートやメディア・アートにおいて古くから用いられた、もはや古典的技法とも言えるものではあるが、本作ではその内容との親和性の高さから、ストーリテリングの手法としても、非常に効果的に観客を作品世界にとりこむものとなっていたことが印象に残った。
畠中 実
キュレーター、美術・音楽批評。1968年生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]に開館準備より携わり、主任学芸員、学芸課長をへて2025年3月末で退任。近年のおもな展覧会に、「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」(2023)、「evala 現われる場 消滅する像」(2024)など。